近年、姿勢に関する情報が溢れかえり、「骨盤前傾」という言葉もよく耳にするようになりました。骨盤前傾は、腰痛やスタイルの悪さの原因とされ、SNSをみればその「修正」を目指す情報が数多く発信されています。
しかし、本当に骨盤前傾は「悪」なのでしょうか?骨盤前傾姿勢とは何でしょうか?この記事では、骨盤前傾に関する誤解を解き、正しい理解を深めていきます。
・パーソナルトレーニング整体「Reglisse」代表
・理学療法士
・生涯動ける体、痛み0を目指すトレーニングがモットー
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骨盤前傾とは?
まず、骨盤前傾とはどのような状態でしょうか。簡単に言うと、骨盤が前方に傾いている状態を指します。
これを評価するのに骨盤の上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線で評価します。
骨盤前傾になると腰椎(腰の部分の背骨)は反り気味になり、股関節は屈曲します。 骨盤後傾では、骨盤が後方に傾き、腰椎は丸まり、股関節は伸展します。
骨盤前傾は「悪い姿勢」ですか?
骨盤前傾姿勢は下部交差性症候群(Lower Cross Syndrome)とも言われます。
これは腹筋と殿筋が弱く、腸腰筋、脊柱起立筋が弱いことを指します。 この筋力や筋肉の硬さの不均衡に生じるものとされています。
しかし、このサイトによると「ウラジミール・ジャンダは、上部交差性症候群(UCS)と下部交差性症候群(LCS)を初めて提唱しましたが、これらの症候群に関連する具体的な筋肉のアンバランスや姿勢異常のパターンを裏付ける研究はほとんどありません」と記されています。
提唱された1979年以来40年近く様々な研究がされています。ここからは骨盤前傾の謎に迫ります。
骨盤前傾姿勢に関する5つの誤解
ここからは骨盤前傾姿勢に関する誤解を記します。
骨盤前傾姿勢は「一般的」です
男性の85%、女性の75%が骨盤前傾姿勢を呈しています。(Herrington,2011)
大多数の方が骨盤前傾姿勢です。
骨盤前傾姿勢と腰痛はあまり関係ありません
骨盤前傾の程度と腰痛の発生率に関連性がないことが示されています。必ずしも腰痛になるわけではありません。
・骨盤前傾角度は、腰痛のある人とない人で大きな違いはない(Lairdら,2014)
・腰痛患者と健常者の間で、腰椎前弯の角度に有意な差は見られなかった。むしろ、腰椎前弯角度が減少する傾向があります(Chunら,2017)
・妊娠第1期から第3期にかけて骨盤前傾角度は増加しますが、腰痛との関連は見られません(Franklin, Conner-Kerr,1998)
骨盤前傾姿勢と腹筋、殿筋の弱さはあまり関係ありません
本当に骨盤が前傾していると腹筋と殿筋は弱いのでしょうか?
腰椎前弯角度や骨盤傾斜角と腹筋の強さとの間に関連性は見られません(Walkerら,1987)
CLBP(慢性腰痛)患者の腰椎前弯と骨盤傾斜は腹筋力と関連しない(Youdasら,2000) 著者らは「立位姿勢のアライメント評価のみで、慢性腰痛患者に対する体幹筋の強化・ストレッチ運動プログラムを処方すべきではない」と主張しています。
「立位姿勢において骨盤前傾角度と股関節筋力は関連しない」ことがわかりました。(Herreraら,2021) 健康な人を立位姿勢の骨盤傾斜だけで股関節筋力が弱いと評価するのは困難です。
骨盤の傾きだけで「腹筋が弱い」と決めつけるのではなく、複合的に評価する必要があります。
骨盤前傾姿勢を評価するのは再現性が乏しいです
骨盤前傾を評価するのに骨盤のASIS‐PSISで評価しますが、実際骨盤の形状にもばらつきがあり、評価の再現性は乏しい可能性があります。
骨盤の傾きや形態には個人差があり、それが測定結果に影響を与える(J Preece,2008)
骨盤の形にもばらつきがあり、ASIS‐PSISだけで評価するのは困難です。腰椎前弯、股関節屈曲角度なども含め評価する必要がありそうです。
立位姿勢はかなり変動します
治療前後で姿勢変化したか写真撮影で評価しますが「再現性が低い」ことがわかっています。
無症状の方と腰痛患者の繰り返しの立位姿勢を評価した研究では「立位姿勢は非常に個別的で再現性がなく、その変動は予測不可能でランダムである」(Schmidtら,2018)
と結論づけています。
Before,After写真も治療効果ではなく、何もしなくても変化している可能性すらあります。
姿勢を過度に気にしすぎないでください
見た目が気になる方は姿勢をよくすることに取り組みましょう。しかし「骨盤が傾いているから腰痛ですね」「姿勢が悪いから腹筋が弱いんです」と言われ自信を無くすのはやめてください。 姿勢を気にしすぎて落ち込む必要はありません。
まとめ
骨盤前傾は一般的な姿勢であり、過度に気にしすぎる必要はありません。
骨盤前傾姿勢だからといって完全に悪いわけではありません。
私が伝えたいのは「姿勢がよくならない」とストレスに感じ運動や治療を辞めないでください。
エクササイズや整体などが効果的な場合は、骨盤前傾の改善に直接つながったかどうかに関わらず、継続することが大切です。姿勢に囚われすぎず、自信をもってトレーニングを継続していきましょう。
Reference
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